湯田温泉×美肌×カピバラ?
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日本には、温泉地に長期滞在して、温泉の効能によって傷や病を癒す「湯治(とうじ)」という文化があります。この湯治、どうやら動物にも効果があるようなのです。
湯田温泉と白キツネ
国内にはたくさんの温泉がありますが、その多くは火山地帯にあります。しかし、湯田温泉は違います。地球内部の奥深くにある熱水が活断層沿いに上がってきて混入するタイプであり、そのなかでも「湯田温泉ほどの高い湯温と湯量をもつ温泉はきわめて珍しい」と、地下流体を研究する山口大学副学長の田中和広さんは語ります。
湯田温泉の泉質はアルカリ性で、肌をすべすべにする美肌の湯として有名です。この温泉には、昔、白キツネが傷を癒すために浸かっていたという伝説があります。本当にあったことなのでしょうか。
動物を温泉に入れる研究
長野県に生息する野生のニホンザルは温泉に浸かることで有名ですが、これは世界的に見ても珍しい行動です。ペットや家畜、動物園などの飼育動物が、温泉に入る機会はなかなかないため、動物に対して温泉がどのような影響を及ぼすのか、その効能はよくわかっていないのです。
湯田温泉は、秋吉台自然動物公園サファリランドからさほど遠くない場所にあります。この恵まれた立地を活かして、山口大学共同獣医学部教授の木村透さんは、サファリランドのカピバラを温泉に入れて、その効能を調べようと考えました。こうして世界初の動物の温泉効能研究が始まったのです。
カピバラの湯
ぬぼーっと愛嬌のある顔が可愛らしい力ピバラ。カピバラは南米のアマゾン流域に薯らすおとなしい動物です。暖かくて、湿度の高い環境で育った彼らにとって、どうやら日本の冬は厳しいようなのです。
カピバラの体は太くて長くて硬い毛に覆われており、季節によって毛が生え変わることはありません。寒くて乾燥した風が吹くと、カピバラの毛はバサバサになり、皮膚も荒れてカサカサになります。ときにはあかぎれで血がにじむこともあるそうです。かわいそうですね。
カピバラは35℃くらいのぬるめのお湯を好み、温泉に入れると、幸せそうに目を細めていつまでも入っているそうです。では、カピバラにとって温泉はどんな効果をもたらしているのでしょうか?
温泉の効果
木村さんはカピバラを湯田温泉の源泉の湯に毎日30分程度入れる実験を行いました。特殊な皮膚用phメーターやサーモグラフでカピバラの体調を調べた結果、毛並みがすっかり良くなり、弱酸性になっていたガサガサの皮膚は、3週間で本来の弱アルカリ性にもどり、すべすべになったといいます。また、日焼けした皮膚は白くなったそうです。なんと美白効果もあるんですね!
カピバラは、耳の末端などが冷えやすいのですが、これが温泉で温まると、粉雪の舞う寒い日でもお湯を出てから30分以上も温度を保ち、湯冷めしにくいそうです。おそらく温泉に溶けている微量な成分が重要なのでしょう。このような効果は、水道を沸かした普通の風呂ではなく、温泉水で見られるようです。
ほかのみんなも
木村さんは、カピバラに限らず、いろいろな動物について温泉の効果を調べようとしています。例えば、モルモットは水が苦手ですが、温泉は別です。ぬるいお湯に長く入るのが好きで、ずっと嬉しそうに入っているそうです。木村さんは、モルモットにとって温泉は健康を促進する効果があるのではないかと推測しています。
ペットや家畜、動物園の動物たちは、さまざまな環境でストレスを感じ、不調になることもあるでしょう。そんなとき、温泉に入れることで、動物たちがリラックスしたり、体調を回復したりできるなら、動物と私たち人間はより良い関係を築けるのではないでしょか。
今回のカピバラの研究結果から考えると、白キツネが傷を癒すために湯田温泉に入っていたという伝説は、実際にあったことなのかもしれませんね。